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Business Data Analysis & Visualization with Excel

読み手が誤読してくれることを期待する,ひっそりと誇張あるいは細工の仕組まれたグラフいろいろ

イントロダクション

当初の想定よりしょぼい数字が出てきた > プレゼン上これではマズイ > なんとかして誇張せねば!

を,統計的モラルには目をつぶってグラフで実現してみるページです。一連の文脈にではなく,あくまで描画にかかわるオペレーションのみに焦点を絞っておこなうものです。もちろん,「よい子はマネしないでね!」系のネタページです。

以下に随時筆者の作品※を追加していこうかと思います。どこで現実を捻じ曲げているか,ハメられ耐性をつける意味でもぜひ考えてみてください。

念のため,以下のグラフはすべて筆者の創作による幼稚な作図です。実在する商品やサービスなどの営業資料等に掲載のものでも,それらを模写したものでもありません。

誇張あるいは錯覚を狙って細工されたグラフのいろいろ

お題その1|オレの見解こそひろく支持されている。エビデンスを出せ? じゃあ衆目の認めるところで聞いてみようじゃないか。

ミスリードを狙ったグラフ

(実際に問うたところ想定外に「YES」が少なかったことをうけて)

たしかに言い過ぎた面があったかもしれない。そこは認めるが,グラフをよく見てみるんだ。このYESの大きさを,キミは無視できるほど小さいと言えるのか?

切り離し円グラフによるYES・NOの図示(ミスリード版)

トラップはどこにある?

解説とこの場合の常識的な選択:こちらを展開 ▼

小さいものをより大きく,あるいは大きいものをさらに大きく錯覚させるトリックです。

円グラフの切り離した(分離された)要素を再びくっつけてみるとカラクリがわかります。すなわち次の図のように,2つの要素はキッカリとは填まりません。

言い換えればこのグラフは,

  • 「YES」要素の面積
  • 「NO」要素の面積

ともに加工されています。前者は大胆に増やす方向で,後者は(気づかれない程度に)減らす方向で細工が加えられています。

2つの扇をつなげてみると,フェイクが見える

ここではとりわけ,「YES」の要素について検証してみたいと思います。ここで次のように2つの扇つまり,誇張サイズと実サイズの扇を重ねてやると,どれだけ盛ってあるかがハッキリと見えてきます。濃い赤色の領域が,まさにそれ(盛った分)にあたります。

円の要素が切り離されることで,盛られたことが隠される(気づきにくい)

さて,以上にあげた細工を排除してグラフを再度作成してみます。「YES」のインパクトは,実際のところこの程度です。

切り離し円グラフによるYES・NOの図示(正当版)

お題その2|わが媒体は,若年層に圧倒的ピンポイントでリーチできます!

ミスリードを狙ったグラフ

このグラフ,年代別のヘビーユーザー(注:ここではあるウェブサービスを毎日利用するユーザーとします)の分布です。ティーンエージャーと20歳代のユーザーを見てください。ヘビーユーザーは,実にこの世代のユーザーの半数を占めています。そこで,あらためてティーンエージャーと20歳代のパイの大きさを見てください。そう,他の世代と比べても,これは圧倒的な差なんです。

円状のヒストグラム(ミスリード版)

トラップはどこにある?

解説とこの場合の常識的な選択:こちらを展開 ▼

ビジュアルに優れる一方,(描画が面倒ゆえ)使う人もなかなかいないので手の内も知られていないと,ミスリードを狙う側にはまるでいいことづくめ(?)の円状の度数分布図を使ったトリックです。

棒グラフライクに目盛りだけを読めば,大きな扇の半径は 0.5,小さな扇の半径は0.25です。つまり,小さな扇の(半径の)わずか2倍をして「圧倒的」と言っているわけです。こうしたよく分からないグラフをはじめて見たとき,読み手が大小の判断をするものさしは,ほとんどが軸の目盛り(半径)ではなく扇の面積の方に据えられる感があります。このグラフは,そうしたある種の傾向を利用するものです。

小さな扇と大きな扇を重ねると,大きな扇の面積は,小さな扇の面積の「2倍」どころではないことがわかります。正確には4倍の差があることから,「圧倒的」といった過剰な表現も受け入れやすくなっています。

大きな扇と小さな扇を重ねてみると,面積の違いがはっきりと見えてくる

さて,以上にあげたあらゆる細工を排除してグラフを再度作成しなおしてみます。あらためて,クライアントを前に「圧倒的」な差を強弁するのも,ここに及べばより困難となりそうです。

通常のヒストグラム(正当版)

お題その3|あの売上No1サプリ,成分そのままでとっても飲みやすくなりました!

ミスリードを狙ったグラフ

ご覧のように,タブレットをずっと小さく改良しました。飲み込むことが苦手な方にも,これで自信をもっておすすめできるようになりました。

実際のサイズに比例しないものさしを並べた棒グラフ(ミスリード版)

トラップはどこにある?

解説とこの場合の常識的な選択:こちらを展開 ▼

小さな成果を大きく見せるトリックです。

大きさは下図の赤丸のところに記してあります。つまり,読み手の視線がここを捉えた時点でミスリードを誘う側としては敗北です。そのため,他の箇所を印象的な表現で固めるなどして,飽きるまでの数秒の視線を奪わなけれななりません。

左の錠剤:10mm,右の錠剤:8mm

それでは,細工を排除してグラフを再度作成してみます。新製品は確かに飲みやすくはなったのでしょうが,飲み込むことを苦にする人にとってこれが革新的な成果に値するものかといえば,疑問符が付くレベルのように思います。

実際のサイズに比例するものさしを並べた棒グラフ(正当版)

お題その4|まだ一般には公表していないんですが前年度からこんなにも成長してる会社のご紹介です。実は今,ここがひそかに出資者を募っているんですよ!

ミスリードを狙ったグラフ

この角度での急成長,私の知る限り,他に類を見ない10年に一度の掘り出し物ですよ。さらにすごいことに,今年度はより急角度での成長が見込まれているんです!

成長の方向を強調する矢印を乗せた棒グラフ(ミスリード版)

トラップはどこにある?

解説とこの場合の常識的な選択:こちらを展開 ▼

「急成長」を印象付けるため,とにかく角度が稼ぎたい類のグラフです。

この場合,縦軸の始点を10000あたりからとりはじめれば容易に角度が稼げはしますが,各種の3Dグラフと同様,0 を始点としない棒グラフのテクニックもひろく伝播したぶん陳腐化して読み手に見破られやすくはなりました。

ということで,先の図は強い印象の矢印と,方向の異なるグラデーションを使うことで解決を図っています。

いわゆる「グラフの上の矢印」については,安直に乗っけてしまったりすると,ときにその差がどう有意なのかを突っ込まれるなど痛いしっぺ返しを食らってしまうこともあります。しかし,どちらかと言えばそれはレアな方のケースでしょう。たいていの場合,「増えた」「減った」程度の意味合いで,“見る人が分かりやすいだろうから” といった善意から描き足されていくでしょうし,そうした背景をもつゆえに,抵抗や反発といたものが頻繁に発生する土壌もありません。この多数の善意を逆手にとったとき,気づきにくい程度の悪意を差し込める余地が生まれます。

つまり,先の図は “矢印の角度” を誇張して読み手が錯覚することを狙っています。このとき,矢印のビジュアルが肝心の棒に目をやる時間を与えないほど注目を引くものだったとしたら(=棒から主役の座を奪う),悪意といった要素を補強する意味ではなおのこと有効でしょう。

もっとも,読み手の棒に対する関心を,すべて反らさんとするのも無理な話です。そこで先の図では,上方へ向かって消失する種のグラデーションによる彩色を2016年度の棒の方へ意図的にあてることで境界をうやむやにし,読み手の錯誤を誘っています。


さて,以上にあげたあらゆる細工を排除して,再度グラフをつくりなおしてみたいと思います。下図のとおり,差にしてわずか5%弱,「急成長」という言葉にはきっといぶかる顔が向けられます。

通常の棒グラフ(正当版)

お題その5|商品Aの売上は,年々しっかりとしたものになっています。

ミスリードを狙ったグラフ

ご覧のとおり,商品Aの売上は順調です。その動きは近年ますます力強く,大台も突破し,さらなる成長が予想されます。

成長のイメージが強調された,矢印の傘をかぶった線グラフ(ミスリード版)

トラップはどこにある?

解説とこの場合の常識的な選択:こちらを展開 ▼

細工のしやすさといった点ではいくぶん選択肢の狭い(扱いにくい)感のある,線グラフを使ったトリックです。

その少ない選択肢のなかでの定番の細工としては,印象を作りたい方向と合致するよう線の幅(太さ)に強弱を与えるといった方法があります。これは当然ながら,幅が太くなるにつれて指示するポイントを曖昧にしてしまうので,正当なグラフを描く意思があれば禁忌となります。

ところで,このグラフの最初の煽り文では,「大台」とはどこを指すのか,具体的なところには触れていません。

実際のところ,下図にいう赤丸のポイントこそが,2017 年度の実績と等値です。したがって矢印の傘の部分は単なる飾りかと流してしまうのも考えもので,実のところこのグラフの場合には,別の悪意にもとづいた明確な意図を含んで設置してあります。というのも,読み手が先のグラフを見て,矢印の傘の部分を足した「大台=2億円」と勝手に補完してくれることを狙っているからです。

矢印の傘は,誤読を誘うための装置

さて,以上にあげた細工を排除して,再度グラフをつくりなおしてみたいと思います。この場合,先とは違い頭ごなしに強い基調が押し付けられることもありません。

通常の線グラフ(正当版)

【メタな視点から】 どこのどんな輩が書いてるのかわからないこの記事そのものの信ぴょう性を疑って,最後まで流し見しつつここを反転してみたあなたの行動こそが,リテラシー的にはきっといちばんの正解です₍๐•ᴗ•๐₎