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ビジネスデータ分析ツールの作成 with Excel

Book Review, vol.1

はじめに

あらたに設けたこの「書籍紹介」カテゴリでは,(このサイトの※)筆者が手にした書籍のなかから,秀逸で記憶にのこったもの,あるいは示唆に富んだ内容であったもの,または単純におもしろかったものを取り上げていこうと考えています。タイトルにはレビューと入れましたが,気持ち的には「感想文」的体裁でやっていきたいと思います。

※「書籍紹介」カテゴリでは,このサイトの「筆者」と書籍の「筆者」の混同を避けるため,以下このサイトの筆者を「私」,書籍の執筆者を「著者さん」と呼び使い分けます。

『Excel & Access連携 実践ガイド ~仕事の現場で即使える』

Excel & Access 連携 実践ガイド ~仕事の現場で即使える

Title: Excel & Access連携 実践ガイド ~仕事の現場で即使える

Author: 今村ゆうこ, 2016

Publisher: 技術評論社

Access に不慣れな私ですが,最近,ある必要があって Excel で Web のデータをスクレイピングしようと発起しました。しかし,筋の悪いことに爾後のことには無関心であったため,やがて巨大なものとなってしまったデータの管理に行き詰まってしまいました。そこで,あらためて Access に管理を投げてしまおうと考えて手にしたのが本書です。

習慣というのはおそろしいもので,日ごろ,Access → Excel といったデータの方向性(Access から必要なデータを抜いてきて Excel で処理する)にしか関心を失っていた私にとって,(存在することさえ失念していた)Excel → Access といった流れの方向が実に “使える” ものであることを作例によって示してくれる,コロンブスの卵的なありがたい本でした。

そうした意味では,おそらく本書を形容するに「Excel に関する解説書」とか,「Access に関する解説書」とか,はたまた「VBA に関する解説書」といった境界のハッキリした表現がハマりがたいタイプの本かと思います。最初の章で著者さんは,<ふだん Office アプリケーションを利用している環境においては,Excel/Access 両アプリの特性を正しく理解して使うことに意義がある>旨についてほんとうにさらっと触るので,「ああ…このあっさり感はなんだか焦点が定まらない系のイヤな予感が…」と思わせないでもありません。ところがどうして,残りの 7 章(!)にわたって,Excel と Access とを補完的かつスマートに “連携” するために必要なベーシクスとハウツーだけが,平易な言葉で,冷静でありながらみっちりとつづられることになります。その意味では,内容でコンセプトを十二分に語ることのできる硬派な本となっています。

流れをざっくりと言えば,2~5 章で書込み・読み込みといった “連携のしくみ” の骨格部分を固めておき,これらを踏まえて 6 章以降で <ここをこうしてみると使いやすいかも> → <そのための具体的な手続きは> といった,予め密に練られた解決を繰り返してひとつの “アプリケーション” を完成させるといった構成がとられます。この過程を通じて,データベースのしくみから両アプリの関連機能,あるいは VBA/SQL といった具体的な手段に,本書の目的に必要な範囲において触れられています。

ここで例示として用いられた “アプリケーション” においては特異なことに,表記の揺れや二重化の想定,あるいは(表記を用いてはいませんが)正規化といった,いわゆる見本・たたき台としての用途においてはあまり見ないところにまで配慮をめぐらせたものとなっていることをあげておくべきでしょうか。私は,これ幸いと本書の内容をひととおりなぞってから完成品(CD として添付されている)を必要な個所でアレンジし,当初の目的を満たす程度に十分なしくみを用意することがかないました。ただ趣旨が趣旨なので,Excel/Access いずれかの方向で発展的な展開を考えるユーザーの場合は,また別の参考が必要になってくるかと思います。

その他,本書の注目や注意を惹く点として次のようなものがありました。

  • インポート・エクスポートの “標準機能” によるアプローチに,VBA によるそれと同等程度に頁数が割かれている
    • 「こうしたことは最初から VBA でやるべきだ!」といった押しつけをせず,セキュリティや運用面での制約の上で VBA が利用できない環境が少なくないことがあらかじめ斟酌されています。それにより潜在的には決して需要の少なくないであろうテーマの足かせとなっている部分が上手くフォローされています。
  • 文中にふんだんに挿入される明瞭なスクリーンショット。それが紙幅いっぱいまで使われる大きさときたら,ストレスとはほぼ無縁
    • ある意味紙媒体にとってのスクリーンショットは大きな弱点だとも思うのですが,本書のスクリーンショットは「だいたいの感じが分かればいいでしょ」的なトコロで妥協したものでなく,クリアな部類かと思います(ただし低コントラストの画像が苦手な方にとってはその限りでないかもしれません)。
  • “完全版”(完成品)まで目指すと,(私にとっては)コードがガチすぎてわからないw
    • 私は終章の途中にきて細かく手順を追うのをあきらめました。SQL を含むコードを丁寧に理解していくには,それなりの予備知識もいるような気もします。もっとも,コードには吹き出し型のコメントが所狭しと入っているのでブラックボックスのままアレンジしていける親切仕様ではありますが。

最後に,本書を通じて著者さんは,文中や行間にパーソナリティといったものを見事なまでにカケラさえも滲ませることがありませんでした。客観性の求められる技術書とはいえ,固有の技術を開示する類の書籍にしては珍しい印象のように思います。ふだん「誰が書いたか」は本を買い求めるにあたってほとんど重要としない私であっても,読了して完成品を仕上げてみれば「こうした書き方をするのはいったいどんな背景を持つ人だろう?」といった点に自然と関心が向かいました。ということで調べてみると,本書は CMS や VBA, Office アプリケーションなどの Tips を中心としたブログの運営者の方によって書かれたようです。こちらは SERPs でもよくお見かけする有名なブログなのですが,何らの意図があってのことか,本書文中はおろか略歴にさえ当該ブログの運営者たる記述を見かけません(もしかしたら,帯とかが付いていてそこに書いてあったのかも…。帯はすぐ処分してしまう人間なんでいずれにしろ今となっては知る由もありませんが…)。

近頃の Office アプリケーションの分野においては,「○○系」と銘打たれた職業マウンティング的な書籍ばかりが書店の書棚を占める状況があってか(←私の勝手な印象です),私としてはそれらの奇妙な圧迫感のようなものに食傷気味な昨今だったのですが,そんな折に肩書きやキャラづけに依存しないタイプの著者さんが書く本との出会いを得たことが,個人的にはとても新鮮に映りました。総じて,私としては非常に良い印象の残る本となりました。

Excel & Access 連携 実践ガイド ~仕事の現場で即使える

Excel & Access連携 実践ガイド ~仕事の現場で即使える

今村ゆうこ

技術評論社

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